「子どもたちの祝福を祈る」

11月17日礼拝メッセージ
小平牧生牧師
「子どもたちの祝福を祈る」
エペソ人への手紙６章1～4 節

　子どもを愛し、育てることは、親だけに課せられたものではなく、私たちすべてに与えられた大切な務めです。私たちは自分の子どもだけでなく、すべての子どもや若者に対しても責任を持つべきです。なぜなら、神がすべての子どもを愛しているからです。
　しかし、自分の子どもであるがゆえに、その子にばかり関心を向け、躾や教育に熱中しすぎてしまうことがあります。このような愛は、時として限界を迎えることがあります。なぜなら、その愛が子どもを自分の所有物として扱うものになってしまう場合があるからです。実際には、それは子どもを本当に愛しているのではなく、自分自身を愛しているに過ぎないのです。

　教会では、Kids Chapel（いわゆる「教会学校」）が開かれ、聖書に基づく信仰教育が行われています。また、「チャイルド・スポンサーシップ」という支援プログラムを通じて、支援地域に住む子どもたちへの活動にも取り組んでいます。さらに、教会の施設を活用して地域の子どもたちの放課後学習会が行われており、教会としてその活動を積極的に支えています。

　私たちは、教会内や地域、そして遠い国の子どもたちに対して、それぞれができることは異なり、関わり方もさまざまです。しかし、子どもたちを愛し、神から与えられた宝を共有するという精神は変わりません。「私たちにできることは何か」という意識を持ちながら、子どもたちの祝福を祈り、その在り方を大切にしていきたいと思っています。

　今朝の聖書箇所は、エペソ人への手紙5章後半から6章にかけて記されているとおり、当時の社会的立場の異なる組み合わせを対比する形で、教会内や、キリスト者としての家庭における具体的な実践的教えを示しています。5章の終わりでは「妻たちよ」「夫たちよ」と記され、6章に入ると「子どもたちよ」「父たちよ」、さらにその後には「奴隷たちよ」「主人たちよ」と続きます。これら三つの組み合わせは、当時の社会における力のない弱い立場と、力のある強い立場を対比しています。

　「妻」「子」「奴隷」という、弱い立場にある者に対しては、「従いなさい」と教えられています。しかし、注意すべき点は、「主にあって」や「キリストのように」といった表現が付け加えられていることです。これは単なる従属を意味するものではありません。もちろん、当時のこれらの関係は従属的な性格を持っていました。しかし、その中で求められているのは、社会的慣習や権威への服従ではなく、「主」に対する信仰と従順であることを示しているのです。一方で、「夫」「父」「主人」という、強い立場の者に対しては、キリストが教会を愛したように妻を愛し、主の教育と訓戒によって子を育て、主のように誠実かつ正義をもって奴隷に接するべきであると命じています。

　特に父親に対して、「子どもを怒らせてはいけません」と教えられています。この「怒らせてはいけません」とは、子どもが単に怒ることを指すのではなく、親が一方的な権威や支配で子どもを怒らせるような行動を慎むべきだという意味です。つまり、親には子どもを「主の教育と訓戒によって育てなさい」と求められており、これは神の言葉に基づく霊的な養いや矯正を意味しているのです。

　今朝は、子どもを育てることについて、聖書の価値観を確認したいと思います。聖書における「育てる」とは、単に物理的な成長を促すだけでなく、精神的・霊的な成長をも促進する役割を含んでいます。神は、子ども一人ひとりに独自の才能や資質を与えており、親はその才能や特性を引き出すことが求められています。親の役割は、子どもを支配することではなく、子どもが神の意図に沿って成長できるように導くことです。そのために、育成における重要なポイントを5つ示したいと思います。

① 子どもたちの人格を受け入れる

　人は「神のかたち」として創造された存在です。エペソ人への手紙が記された当時、子どもは親の所有物として扱われていました。しかし、パウロが教えているのは、子どもは親の所有物ではなく、一人の人格を持つ存在であるということです。子どもを受け入れるということは、その子に与えられた異なる役割や能力を尊重し、受け入れることです。それは、親の理想像や社会の期待とは異なるかもしれませんが、その子の持つ人格や個性を認めることなのです。したがって、親としての重要な務めは、子どもたちが他の人とは異なる独自性を理解し、尊重できるように助けることだと思います。

　ふと、レイナ・マリアさんのことを思い出しました。生まれつき両腕がなく、左足は右足の半分の長さしかなかった彼女は、1991年にテレビ朝日の報道番組「ニュースステーション」で放送されたドキュメンタリーをきっかけに、日本で有名な女性となりました。その番組で彼女が「アメイジング・グレイス」を歌う姿を見て、私は彼女がクリスチャンであることを確信しました。また、長野パラリンピックの開会式で、レイナさんが善光寺の本堂で賛美コンサートを開催したことも記憶に残っています。お寺での賛美が許されるほど、彼女の影響力は大きかったのだろうと推察します。レイナ・マリアさんの両親は、彼女を単なる障碍者としてではなく、一人の娘として育てました。彼女を「ありのままの自分」として受け入れ、障碍を個性の一部として「神からの贈り物」として尊重しました。そして、神のためにその体を使うように教えたのです。その影響を受けた彼女は、どんな困難にも感謝し、喜びと祈りを大切にする女性へと成長したのです。

　親が子どもたちに「あなたはユニークだ」と教えることは、時に別のプレッシャーを与えることになるかもしれません。しかし、「私たちは、与えられた恵みに応じて、異なる賜物を持っている」という御言葉の教えを深く噛みしめていきたいと思います。

② 子どもたちを尊ぶ

　私たちは、子どもたちに対して、人が「神のかたち」として造られた、価値のある尊い存在であることを、あらゆる機会を通じて、またはすべての働きの中で語り続けなければなりません。

　詩篇139:13-14には、子どもの始まりは母の胎内で受精したときからであると記されています。医学的な知識が乏しかった時代に、このような詩が詠まれていたことに驚かされます。子どもは、母の胎内にいるときから神によって命を与えられ、それぞれの形に造り上げられているのです。したがって、子どもは「できたもの」ではなく、「与えられたもの」であり、もっと正確に言えば、「委ねられたもの」と言えるでしょう。すなわち、人間の存在は偶然の産物ではなく、私たちの力で造られたものでもなく、親の所有物として与えられたものでもなく、家の跡取りとして与えられたものでもありません。それは、神の意志により、神の御手によって、一人一人に特別に与えられた命なのです。

　ですから、子どもたちは、一時的に委ねられているに過ぎず、やがて時が来れば、親から離れ、またその子どもも新たに親となるのです。親にとって子どもに対する大切な務めは、子どもを育ててくださるのは神であるということを教えることです。この社会では、何が人の価値を決めるのかが外的な基準によって決められがちですが、そのような誤った価値観の影響で、自分を駄目だと思い込んでしまう子どもたちが多く存在します。しかし、私たちは、子どもたちに神によって創造された素晴らしい存在であることを教えると同時に、イエス・キリストの命がその代価として捧げられるほど、愛されている尊い存在であることを伝えるべきです。つまり、神が私たちを罪の奴隷から解放するために、神のひとり子であるイエス・キリストの命と引き換えに私たちを買い戻されたことを示さなければならないのです。

③ 子どもたちを信頼する

　私たちが神に愛され、尊い存在であることを子どもたちにどのように伝えるか、そのために必要なことは、子どもたちを信頼することです。人を信頼することは、人から信頼される経験を通して学ぶことができます。自分が価値のある存在であると認識するためには、まず信頼されることが重要なのです。コリント人への手紙第一13章7節のリビングバイブル訳では、次のように記されています。

　つまり、子どもに対する親の愛は、何かをしてあげることによって伝わるのではなく、子どもを信じることによって表されるのです。子どもが親の期待に応えられなかったとしても、どんなに失敗を繰り返したとしても、親は子どもを信頼し続けることが大切です。もし子どもを諦めてしまうのであれば、親としての務めを果たすことはできません。どんな時でも、親は子どもを信頼し、その成長を期待しながら守り続けるべきです。それこそが、親と子の最も深い絆を築くことにつながるのです。

④ 子どもたちを肯定する

　それでは、子どもを信頼するには、どうすればよいのでしょうか。現状では、信頼できる材料が何もないように感じるかもしれません。しかし、それは私たちが神を信頼することによって実現できるのです。信じることは、すべてを理解し納得した上で行うことではありません。神が最善しか行わないと信じることによって、初めて子どもを信じることが可能になるのです。子どもを信じるためには、まず子どもを肯定することが必要なのです。

　エペソ6章4節のリビングバイブル訳では、次のように記されています。 すなわち、親が子どもに対して過度に厳しくし、非難や否定的な態度を取り続けることを禁じています。親の言動が愛や励ましよりも、叱責や命令ばかりになると、子どもは傷つきやすくなり、心に反発や反抗心を抱くようになるということです。

　「リビングバイブル」は、アメリカの神学者ケネス・テイラーによって翻訳され、約50年前に出版された英語版の聖書です。従来の聖書翻訳は、原語のニュアンスを正確に伝えることを目的とし、文字通りの意味を重視した逐語訳が主流でした。しかし、こうした翻訳は、当時の歴史的背景や文化、地域性を理解しなければ内容を正確に把握するのが難しく、現代の読者にはやや難解な部分がありました。これに対し、「リビングバイブル」は、聖書のメッセージを現代の読者に分かりやすく伝えるため、意訳を積極的に取り入れ、より親しみやすい文章で書かれています。その内容は福音的であると認められており、現在も世界中で多くの人々に読まれ続けています。

　もちろん、聖書には「子を愛する者は、つとめてこれを懲らしめる」（箴言 13:24）という御言葉があります。しかし、ここでの「懲らしめる」とは、罰することではなく、訓練することを意味します。罰は過去に犯した罪に対するものであり、訓練は将来に向けて行うものです。子どもを叱ることは大切ですが、子どもがなぜ叱られているのかを理解していない場合が多いのです。もし、叱られていることが自分のためであると理解できれば、親の愛や信頼が子どもに伝わります。しかし、それが理解できないと、子どもは混乱してしまうことがあります。子どもが混乱しないようにするためには、怒ったままで叱らないことが重要です。

　言葉は、親の心の状態を反映し、子どもに良い影響を与えることもあれば、悪い影響を与えることもあります。無益で有害な言葉は、子どもを傷つけたり、信頼を損なったりします。怒ったままでの言葉は語気が強くなり、一見、子どもたちはその言葉を聞いたように見えるかもしれませんが、実際には、子どもには本当に伝わっていないことが多いのです。厳しい言葉でしつけていると勘違いしている親もいますが、そのような親は愚かであると言えます。子どもの人格を尊重し、励ますような言葉を使うことによって、子どもに存在価値を感じさせ、信頼されていると感じさせることができるのです。

⑤ 子どもたちのすべてを愛する

　コリント人への手紙第一13章7節の御言葉は、一言でいえば、「愛は諦めない」ということです。これまで確認してきたことを振り返ると、それは神が私たちをどのように取り扱ってくださっているかと同じ姿勢を示しています。神は私たちの存在や人格を尊重し、私たちのような欠け多き者をも信頼し、肯定し、受け止めてくださいます。そして、神は決して私たちを諦めることはありません。

　そのように、神が私たちを取り扱っておられる姿を模範とし、私たちも親として子どもを取り扱うべきです。どんなに犠牲を払うことになっても、子どもに向き合い、信じ、期待し、忍耐強く守り抜くことが求められます。神は私たちの弱さや欠点を知りつつも、親としての役割を与え、見守ってくださっています。その期待に応えるために、神を信じ、従う姿勢が必要です。それこそが神の恵みであり、私たちの使命なのです。

　私たちは、子どもが自分の所有物ではなく、神から委ねられた存在であることを忘れてはなりません。子どもたちの成長と祝福のために、常に祈り続けたいと願うものです。

・・・神があなたを愛してくださっているように

Author: Paulsletter